ある小さな星に、いつもたくさんの荷物を抱えて、ため息をついている旅人がいました。
旅人は、目に見えるものや、誰かに言われた「こうでなくちゃいけない」というルールを、ひとつ残らずリュックに詰め込んでいたのです。
ある日、観音さまという名の不思議な旅の友だちがやってきて、そっと言いました。
「ねえ、君がぎゅっと握りしめているその重たい荷物、本当はどこにもないものかもしれないよ」
「えっ? こんなに重いのに?」と、旅人は目を見開きました。
「そうさ。この世界にあるもの——スマホも、君の悩みも、悲しみも、ぜんぶ『からっぽ(空)』なんだ。
形があるように見えるけれどね、朝露が消えるみたいに、景色はつねに姿を変えている。だから、ずっと同じままで苦しいものなんて、本当はないんだよ」
観音さまは、夜空の星を指さしながら続けました。
「『形があるもの』は、裏を返せば『何にだってなれる』ということなんだ。
氷がやさしいお水に戻るようにね。
だから、自分という存在にガチガチのラベルを貼る必要なんてないんだよ。
生まれるとか、ダメだとか、汚れているとか、そんなものは人間が勝手に決めたルールにすぎないんだから」
「じゃあ、どうしたらいいの?」と、旅人は尋ねました。
「ただ、手放せばいいのさ。
『こうでなければならない』という地図や、遠くにあるはずのゴールなんて最初からないんだから。ギュッと握った手をパッと開いたとき、心のなかに吹く風は、とても心地いいはずだよ。
物事はいつも、ただそこにあるだけ。
だから、何かトラブルが起きたって、こうつぶやけばいいんだ。
『まあ、これもひとつの景色だな』ってね」
観音さまは、うれしそうに微笑んで、最後に小さく秘密の呪文を教えてくれました。
「ガテー、ガテー、パーラガテー……」 (さあ、歩こう。歩こう。向こう岸の、もっと広い世界へ)
「パーラサンガテー、ボーディ、スヴァーハー」 (みんなで一緒に、軽やかな光の方へ行こう。きっと、すべてはうまくいくから)
旅人は、背負っていた重いリュックを下ろすと、まるで生まれて初めて空を飛ぶかのように、深く、大きく息をしたのでした。
Gemini










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